「クリスマスプディング まずい」で検索されたということは、イギリスの伝統的なデザートに興味はあるものの、なんだか不穏な評判を耳にしてためらっている…という感じでしょうか。
あるいは、一度挑戦してみたけれど「薬っぽい」「獣臭い…?」と感じてしまったり、そもそも日本の「プリン」とは全然違う見た目と味に「え、これがプリン?」と衝撃を受けてしまった経験があるのかもしれませんね。
その感覚、すごくよく分かります。私も最初は、あの黒くてずっしりした見た目と、一口食べたときの複雑すぎる風味に、正直「…これは、美味しいのか?」と戸惑ってしまいましたから。
でも、実は、その「まずい」と感じるのには、はっきりとした理由があるんです。特に伝統的なレシピで使われる「スエット」という馴染みのない材料や、独特のスパイス使い、そして強すぎるアルコールの風味が、私たちの慣れ親しんだ味覚に合わないことが多いんですよね。
でも、それは「本場の味がダメ」ということではなく、もしかしたら本当の食べ方を知らなかっただけかも。それに最近は、カルディなどで買える市販品や、スエットなしの食べやすいアレンジレシピもたくさん出てきています。
この記事では、なぜクリスマスプディングがまずいと感じられがちなのか、その文化的な背景や理由をしっかり解き明かしつつ、その印象をガラリと変えるかもしれない「本当の美味しい食べ方」、そして日本で楽しめるおすすめのプディングまで、私の目線でじっくりまとめてみました。
- クリスマスプディングが「まずい」と感じる主な理由
- 伝統的な材料「スエット」の正体と味への影響
- プディングの印象が変わる伝統的な食べ方とソース
- 日本で買える食べやすい市販品と簡単レシピ

クリスマスプディングがまずい本当の理由
クリスマスプディングと聞いて、あの真っ黒で、ずっしりと重そうな塊を思い浮かべる人も多いと思います。私も最初は「これがプリン?」と本当に驚いたんですが、多くの日本人が一口食べて「まずい」と感じてしまうのには、単に味が濃いとか甘いとかいうレベルではなく、日本の食文化との間にいくつかの決定的なギャップがあるからみたいなんです。
日本のプリンと「Pudding」は別物
まず、最大の誤解がこれですよね。私たちが「プリン」と聞いて100人中100人が想像するのは、卵と牛乳で作られたカスタードと、ほろ苦いカラメルソースの、あの「冷たくて」「プルプルで」「滑らか」なデザートだと思います。
でも、イギリスでいう「Pudding(プディング)」という言葉は、意味が全然違うんです。
イギリスにおける “Pudding” の意味
イギリスで “Pudding” という言葉は、主に2つの意味で使われます。
- デザート全般を指す言葉(食後の甘いもの全般)
- 小麦粉、卵、脂肪などを混ぜて蒸し上げた料理の総称
(ちなみに、お肉などを使った塩辛い「セイボリー・プディング」というジャンルもあるくらい、広義な言葉なんです)
クリスマスプディングは、この2番目に当てはまります。つまり、その実態は「熱々で、濃密で、ずっしり重い、スパイスとドライフルーツの蒸しケーキ」なんですね。
「冷たいカスタード」を期待してスプーンを入れたら、目の前に現れるのは「黒っぽくて熱い、ずっしりねっとりした、アルコールとスパイスが香る物体」。
この期待と現実のギャップ、いわば「カテゴリ・エラー」こそが、味を判断する以前に「思ってたのと違う」「まずい」と感じてしまう、最初の、そして最大の原因になっているかなと思います。
獣脂「スエット」が獣臭い?
伝統的なクリスマスプディングのレシピを調べてみて、私が一番「え!?」と声を上げてしまったのが、「スエット(Suet)」という材料です。
これ、何となく「ラードみたいなものかな?」くらいに思っていたら、大間違い。スエットとは、仔牛や牛の腎臓の周りについている硬い生脂肪(ケンネ脂)のことなんです。日本の家庭料理で、ましてやデザートに使うバターや生クリーム(乳脂肪)とは、まったく系統が違いますよね。
なぜスエットが使われるのか?
伝統的なレシピでスエットが使われるのには、ちゃんとした理由があります。スエットは、私たちが使い慣れているバターよりも融点(溶け出す温度)が高いんです。
そのため、プディングを何時間もかけてじっくり蒸し上げる過程で、バターのようにすぐに溶け出して生地に混ざってしまうのではなく、ゆっくりと溶け出します。これが、あの独特のしっとりとしつつも重厚な食感と、豊かなコクを生み出すんだそうです。また、脂肪でコーティングすることで、長期間の保存性を高める役割も担っていました。
味覚の衝突:「獣臭さ」の正体
でも、このスエットこそが、日本人にとって最大のハードル、「獣臭い」「脂っこい」と感じる感想の直接的な原因です。
日本の味覚は、料理、特にデザートにおいて「kusami(臭み)」に非常に敏感ですよね。日本料理では、お肉や魚の臭みを取り除くために、生姜を使ったり、お酒で洗ったり、「湯通し」をしたりと、繊d細な下処理技術が発達しています。
一方で、クリスマスプディングは、この動物性の脂肪(獣脂)が持つ特有の風味を、あえて「臭み」ではなく「コク」や「リッチさ」として活かすデザートなんです。
バターや生クリームのクリーンな「乳脂肪」の香りに慣れた私たちが、デザートから濃厚な「獣脂」の風味を感じ取った時、脳がそれを「美味しいコク」ではなく「異物(臭み)」として処理してしまい、拒否反応につながるのは、ある意味で当然のことかもしれませんね。
スパイスの香りが薬っぽいと感じる
もう一つの大きな壁が、その強烈な風味、特にスパイスです。
伝統的なプディングには、シナモンはもちろん、クローヴ(Clove)、メース(Mace)、オールスパイスなどが、本当に「これでもか」というほど使われています。
西洋において、これらのスパイスの組み合わせは「クリスマス」を連想させる「温かく」「祝祭的」な、とてもポジティブな香りとして認識されています。アップルパイやシュトーレンにも通じる香りですよね。
しかし、日本ではどうでしょう。特にクローヴやシナモンのような、甘さを伴わない強く、スッとする香りがデザートから漂ってくると、時に「漢方薬(Kampo)」や「薬用のど飴」を連想させてしまうことがあります。「薬っぽい」という感想は、このスパイスの組み合わせが、日本の「デザートの文脈」から大きく逸脱しているために生じる、文化的な感覚の違いなんだと思います。
保存食由来の強いアルコール
クリスマスプディングは、そもそも冷蔵技術がなかった時代に、クリスマスから何ヶ月も前に作られ、熟成させて食べる「保存食」としての側面が強かったようです。
その保存性を高めるために不可欠だったのが、大量のアルコールです。
このアルコールが、スエットの脂っぽさを中和し、風味を深め、そして何よりも強力な「保存料」の役割を果たしてきたわけです。何時間も蒸し調理を経たからといって、すべてのアルコールが飛ぶわけではなく、非常に「boozy(ブージー=酒気の強い)」な仕上がりとなります。
お酒に弱い人や、デザートに「お酒の味」を求めていない人にとって、このガツンとくる強烈なアルコールの風味は「キツい」「苦い」「アルコールが強すぎる」というネガティブな感想に直結してしまいます。
脂っこい食感が苦手
ここまで出てきた「スエット(獣脂)」と、長時間の「蒸し調理」、そして「大量のドライフルーツ」。これらが組み合わさることで、クリスマスプディングは非常に密度が高く、ねっとりとした、重たい食感になります。
日本のデザート、例えばショートケーキのスポンジや、シフォンケーキのような「軽く」「ふわふわ」「しっとり」な食感とは、まさに対極にありますよね。
「濃厚」や「リッチ」と言えば聞こえはいいですが、多くの日本人にとっては「重すぎる」「脂っこい」「ねっとりしてて苦手」という、食感の面でも拒否反応が出やすい要素が揃っているかなと思います。

まずいクリスマスプディングの印象を覆す食べ方
と、ここまで「まずい」と言われる理由ばかりを、これでもかと並べてしまいました。これだけ聞くと「やっぱり自分には無理かも…」と思ってしまいますよね。
でも、ちょっと待ってください! それは、伝統的なプディングを「そのまま」食べた場合の話かもしれません。
実は、クリスマスプディングには「まずさを和らげる」ための必須の食べ方があるんです。これを知るだけで、あの「重くて薬っぽい塊」という印象が、180度変わるかもしれませんよ。
ソースで激変?伝統的な食べ方
私が一番声を大にして言いたい、最も重要なポイントは、「クリスマスプディングは、ソースと合わせて初めて完成するデザート」だということです。
あの強烈すぎるスパイス、ずっしりした脂っこさ、ガツンとくるアルコール感は、非常に甘く、クリーミーなソースをたっぷりかけることを前提に、あえて強く、アンバランスに作られているんですね。
プディング本体は、いわば「固形のカレールー」のようなもの。それをそのままかじって「しょっぱい!まずい!」と言っているようなものだったんです。
では、その「ルー」を「カレー」に変えるための、魔法のソースたちを紹介します。
ブランデーバター (Brandy Butter)
最も伝統的で、クラシックなパートナーです。これは、バター、粉砂糖、そしてブランデーを混ぜ合わせた、加熱していないクリームです。
熱々のプディングのスライスに、この冷たいブランデーバターを乗せます。すると、プディングの熱でバターがじゅわ〜っと溶け出し、クリーミーで甘く、香り高いソースとなるんです。このソースの「甘さ」と「脂肪分(乳脂肪)」が、プディングの「スパイス」と「脂っこさ(獣脂)」を、見事にカットし、調和させてくれます。
カスタードソース (Custard)
日本人にも一番馴染み深く、最も「安全」で「間違いない」選択肢が、温かいカスタードソースです。イギリスでは「イングリッシュ・カスタード」と呼ばれる、とろりとしたソース状のものを指します。
あの複雑なスパイスやアルコールの風味を、カスタードの優しい甘さと卵の風味が、ふんわりと包み込んでくれます。これなら、どんな人でも「美味しい」と感じやすいはずです。
アイスクリーム (Ice Cream)
現代的な食べ方ですが、非常に人気があるのが、冷たいバニラアイスクリームを添える方法です。
「熱(プディング)」と「冷(アイス)」のコントラストが、口の中で絶妙なハーモニーを生み出します。プディングの重たい食感を、アイスの冷たさが劇的に食べやすくしてくれるんですね。これはもう、反則級の美味しさです。
フランベはアルコールを飛ばす儀式
クリスマスディナーで、部屋の照明が落とされ、青い炎を上げて運ばれてくるプディング…。映画などで見たことがあるかもしれません。あの「フランベ(Flambé)」は、単なる派手なショーマンシップ(演出)じゃないんです。
フランベは、温めたブランデーなど、アルコール度数の高いお酒をプディングにかけて火をつけ、一気にアルコール分を燃焼させる調理法です。
このプロセスには、とても重要な「味覚的」な理由があります。
フランベを行うことで、アルコール度数の高いお酒が持つ、ツンとくる「生」のアルコール臭や、舌を刺すような苦味だけが強制的に蒸発します。その結果、アルコールの「キツさ」だけが取り除かれ、ブランデーやラム酒が本来持っている「芳醇な香り」や「甘い風味」だけがプディングに移るんです。
つまり、フランベは「アルコールが強すぎる」という最大の問題点を解決し、風味を格上げするための、非常に合理的な「最後の仕上げ」だったんですね。
フランベの注意点:安全第一で!
ご家庭でフランベを行う際は、本当に注意が必要です。火柱が想像以上に高く上がることがあります。
- コンロの周りや上(換気扇など)に、キッチンペーパーや布巾など燃えやすいものを絶対に置かない。
- 火災報知機が作動しないか、あらかじめ確認する。
- お子様やペットが近くにいないことを確認する。
安全に十分配慮して行ってくださいね。
「フランベでアルコールは完全に飛ぶ」は本当?
「火をつけたらアルコールは全部飛ぶ」と思われがちですが、実はそうでもないんです。ある研究によれば、フランベ(火をつけた)場合でも、約75%のアルコールが料理に残るというデータがあります(出典:U.S. Department of Agriculture (USDA), 2007)。
煮込み料理で2.5時間煮込むと5%まで減りますが、フランベは短時間。アルコール分が「ゼロ」になるわけではないので、お酒に非常に弱い方や、お子様が召し上がる場合は、この点も覚えておくと良いかもしれません。
スエットなしの簡単レシピで自作
「伝統的な食べ方はわかったけど、やっぱりあの獣脂(スエット)は、精神的にもハードルが高い…」という人も多いと思います。私も、正直に言うとそうです。
幸いなことに、今は「美味しいクリスマスプディング」を自作するために、伝統の壁を乗り越える「スエットなし」の簡単レシピがたくさんあります。
スエットの代わりにバターを使う
最大の難関であるスエットは、シンプルに「溶かしバター」で代用してしまいましょう。ある簡単なレシピでは、スエットの代わりにバターを使っています。これなら、あの「獣臭さ」の問題を完全に回避できますし、私たちにも馴染みのあるバターの豊かな風味で、リッチなコクを出すことができますよね。
アルコールを調整する
「強すぎるアルコール」も、自分で調整可能です。例えば、
- ドライフルーツを漬け込むラム酒の量を減らし、漬け込み期間も短くする。
- 生地に入れるブラックビールの代わりに、ノンアルコールビールやリンゴジュース、オレンジジュースを使う。
こうすることで、アルコールを控えた、あるいはノンアルコールのプディングにアレンジすることが可能です。さらに、すりおろしたリンゴなどを加えるレシピもあり、フルーティーな酸味が加わることで、全体の風味が軽やかになり、食べやすさが格段にアップします。
これならもう、伝統的なプディングとは別物の、「簡単フルーツ蒸しケーキ風」として、気軽に楽しめるんじゃないかなと思います。
市販品カルディの味と特徴
「でも、やっぱり自分で作るのは大変…」「まずは少量で『お試し』してみたい」という人には、カルディ(KALDI)でクリスマスシーズンに売られている市販のプディングが、「入門編」としてぴったりかもしれません。
カルディで扱っているプディングは、本場イギリスからの輸入品でありながら、比較的小さなサイズで、価格も手頃なものが多いのが特徴です。何より、日本市場で販売されているという時点で、ある程度日本人の味覚に受け入れられやすいものがセレクトされている可能性が高いです。
商品の原材料表記を確認する必要がありますが、これらの多くは伝統的なスエット(ケンネ脂)を使わずに、バターや植物性油脂で代用しているケースが多いようです。そのため、「獣臭さ」の心配は、かなり少ないんじゃないかなと思います。
その風味は「濃厚」で「大人の味わい」と評されていて、デザートとしてだけでなく、小さくスライスして、チーズやナッツと一緒に、ワインなどのおつまみとして楽しむのもおすすめされています。これは新しい発見ですよね。
ファーイーストバザールのアイス
「まずい」というネガティブなイメージを根本から覆す、まさに画期的な「再発明」として、近年とても人気なのが、FAR EAST BAZAAR(ファーイーストバザール)のクリスマスプディングです。
ここのプディング、なんと伝統的な蒸しケーキではなく、「アイスケーキ」として再解釈されているんです。
これが、私たちがクリスマスプディングに感じていた「苦手」な要素を、すべて見事に解決してくれている、本当にすごいアイデアだなと思います。
ファーイーストバザールのアイスが解決したこと
- 食感の問題: 「熱く、重く、ねっとり」 → 「冷たく、滑らか」なアイスの食感に。
- 脂肪の問題: 「スエット(獣脂)」 → 「乳脂肪(アイスクリーム)」という、誰もが大好きな風味に。
- 風味の問題: 「獣臭さ」「薬っぽさ」「強すぎるアルコール」 → それらのネガティブな要素を排除し、ドライフルーツやスパイスの「美味しいところだけ」を抽出。
これはもう、伝統的なプディングとは全くの別物ですが、「クリスマスプディングの美味しい要素だけを、安心して体験したい」という人にとっては、これ以上ない、最も確実な「美味しい」答えかもしれませんね。お値段は少し高め(6,000円台)ですが、特別な日のデザートとして、自分へのご褒美に選ぶ価値は十分にあると思います。
まずいクリスマスプディングからの卒業
ここまでじっくりと見てくると、「クリスマスプディング まずい」という検索ワードは、単なる味の否定ではなく、日本とイギリスの間に横たわる、深い「食文化のギャップ」から来る、素直な戸惑いの表れだったんだな、とわかります。
「プリン」という名前の致命的な誤解から始まり、スエット(獣脂)という未知の食材、そして薬っぽく感じてしまうほどの強いスパイスとアルコール…。これらは「まずい」のではなく、私たちがこれまで出会ってこなかった、「慣れが必要な異文化の味」だったんですね。
でも、その理由と、ソースをかける、フランベでアルコールを飛ばすといった「正しい食べ方」を知った今なら、もう「まずい」の一言で終わらせずに済みそうです。
今後の選択肢は、大きく分けて3つあります。
- 【伝統主義の道】:もう一度、本場のプディングに挑戦してみる。ただし、次は必ず「ブランデーバター」や「カスタード」をたっぷりかけて。
- 【適応の道】:日本人の味覚に合わせて「修正」されたバージョンから入る。カルディの市販品や、ファーイーストバザールのアイス、あるいはスエットなしの自作レシピで、「美味しい」体験を優先する。
- 【代替の道】:プディングとは潔く決別する。背景を理解した上で「やっぱり自分には合わない」と判断し、他の伝統的なクリスマス菓子を選ぶ。
プディング以外の選択肢
ちなみに、「代替の道」を選ぶとしても、素敵な選択肢はたくさんあります。
- シュトーレン(ドイツ):ドライフルーツとスパイスを使いますが、食感は「パンとケーキの間」で、ずっと親しみやすいですよね。
- ビュッシュ・ド・ノエル(フランス):薪の形をしたロールケーキ。濃厚なクリームとチョコレートは、日本のケーキに一番近いです。
- トライフル(イギリス):実は、プディングと並ぶイギリスのもう一つのクリスマスデザート。スポンジ、フルーツ、カスタード、クリームを重ねた冷たいデザートで、これこそ私たちが「プディング」に期待したイメージに一番近いかもしれません。
クリスマスプディングとの距離感がしっかりわかった今、今年のクリスマスは、自分に一番合った形で、この奥深いイギリスの伝統を楽しんでみたいですね。
